負けた力士に手を差し伸べず、意気揚々と勝ち名乗りをうける。相撲の伝統がもつ神々しさの美よりガッツポーズ風の醜さが際立つ昨今は実に苦々しい。その矢先「敗者にとって情けは屈辱」と思慮深さを褒める知識人の無知さに辟易する。「病身への同情は不要・・・」とまで言った元横綱が62歳で逝った。徹底した勝負師の姿であるとまでいうか。相撲を勝負の世界だけのものにした。日本喪失、神事喪失、文化喪失、神話喪失、国のかたち喪失である▼相撲館は、奈良県葛城市にある市立の博物館。正式名称は葛城市相撲館「けはや座」。野見宿祢と当麻蹴速が相撲の祖だ。蹴速が負けた。博物館の名は「すくね座」でなく『けはや物語』という独自の映画が上映されているくらいだ。相撲の開祖・当麻蹴速の塚がある。蹴速にとって屈辱か▼人生を勝つことしか考えない人が褒められる風潮はいかがなものか。病気で伏せているのも負けか゚。破産したのも負けか゚。窓際族も負け戦か。その人たちへの同情の手は屈辱を与える手か▼ラグビーでノーサイドは美しい。負けても勝ってもリング上で肩を抱き合う。相撲は勝敗を超えたもの、ヤコブがイスラエルになった誇りはいずこにあるのか。

著者紹介

畠田 秀生
畠田 秀生
聖書と日本フォーラム会長。聖書日本キリスト教会・登茂山の家の教会牧師。三重県志摩市在住。