半世紀近く左下奥歯を欠損したまま過ごした。23才の時、ニュージーランドで親知らずが腫れ出した。我慢ならず歯科に飛び込んだ。彼はペンチでグキッと奥歯を抜いた。それ以来何人もの歯医者は、日本なら何とかして親知らずを抜くぞ、とのたまった。入歯せずともOKだと言われて済ませてきた▶今回の歯医者が初めて入歯は?と勧めた。なんと食べ物が口内で上手に粉砕されていく快感!もっと早く入歯の恩恵を受けておくべきだった。今日で2日目、食事が楽しい▶入歯の歴史をその歯科医に尋ねると、和歌山市成願寺の尼僧佛姫(俗名中岡テイ、1538年没)の木床一木造りの上顎総義歯とのこと。本居宣長も松坂から津まで歩いて入歯の治療に出かけていた。入歯は柘植の木だった。また一般平民は入歯など夢のまた夢物語だった▶歯の痛さは頭の芯まで響く。麻酔のない時代、抜歯はどうしたの?と聞くと、それは地獄ですよ、のひとこと▶歯の痛さから知ったのだが、なんと我らは現代の医療の進歩と技術の恩恵で素晴らしい時代に生を受けていることか。貧しい家庭で育った私が江戸時代に親知らずが腫れていたらと思うとゾッとする。
著者紹介
- 聖書と日本フォーラム会長。聖書日本キリスト教会・登茂山の家の教会牧師。三重県志摩市在住。
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